引きこもりから抜けだそう 「ぬいぐるみセラピー」生かした服飾デザイン

2020年0228 福祉新聞編集部
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京都造形芸術大 松崎雛乃さん

 自宅のある琵琶湖のほとり(滋賀県大津市)で、微笑んだ。ポケットの中には、ぬいぐるみがいる。いつでも手をつなぐことができる。ギュッと……。「怖い時でも、安心できるんです」。松崎雛乃さんがデザインした、ぬいぐるみをポケットの中に住まわせた服だ。引きこもりのトンネルから抜け出せるファッションを創造していきたい……雛乃さんの実践が、前に前に進む。

 

 「よく覚えていないんです。確か、秋だったような」

 

 自宅に引きこもっていた雛乃さんが、ネットで買った「かわいい服」(雛乃さん)を手にして、外で着てみたくなったシーンについてだ。

 

 高校2年、17歳のときにうつ病になって外出できなくなり3年が過ぎたころ、というのだから、19歳か20歳(はたち)の秋だったのだろうか。とにかく、かわいい服が、外出を後押ししてくれた。

 

 気持ちが、少しずつ前向きになった。高卒認定制度を活用して、京都造形芸術大学の空間演出デザイン学科ファッションデザインコースに進学した。

 

 「なぜ、服をつくるのか……3回生になった2019年春、担当の先生から何度も問いかけられました。正直、服があふれるこの世の中で、私が服を作る意味を見いだせないでいました」

 

 そんな時、ぬいぐるみがそばにあると落ち着くことを、思い出していた。そして、「ぬいぐるみセラピー」と出会った。

 

 <ぬいぐるみによって心を癒やすという治療法の一種です。そのとき、わたしは「引きこもりの自分の経験を活かした服作りはできないだろうか。それこそがわたしがこの時代にあえて服を作る意味なのではないか」という考えに至りました>(「服と福祉」のタイトルで書いた配信サイトから)

 

 雛乃さんは、ポケットの中にぬいぐるみをファスナーで止めることを思いついた。着脱可能な、ぬいぐるみだ。気持ちを落ち着かせたい時に、ポッケの中に手を入れるふりをして、ぬいぐるみをギュッとにぎる。手をつなぐ。

 

 

 スウェット地で、おなかの前にポッケをあしらった服をデザインした。この服を着ない時でも、ぬいぐるみにそばにいてもらえるように、アタッチメントを付けると、キーケースになる工夫もした。

 

ぬいぐるみでキーケースをくるんで使う

 

 ぬいぐるみの素材には、手の汗を吸水できるタオル地を使い、中には綿を入れて、優しさと柔らかさを醸し出した。

 

 色にもこだわった。グレーは、どんな肌の色にも似あうカラーとされており、「あなたが主役」という意味を込めて採用した。袖口などに使ったリブニット(畝のある織物)の色をオフホワイトにしたのは、隣接する色を明るく見せる効果などがあり、引きこもりの暗いイメージを払拭するために選んだという。

 

 この半年間、試行を重ねた。そして1月29日、草津市にある滋賀県ひきこもり支援センターで、利用者のみなさんと、ぬいぐるみの製作を始めた。

 

 近々、雛乃さんが服を作り、ネットなどを利用して、いっしょに販売する。収益は福祉のために役立てるというプロジェクトだ。

 

 取材のきっかけになった福祉新聞社に寄せられた雛乃さんのメールは、次のような言葉で締めくくられていた。

 

 <ぬいぐるみを作る人は、誰かの支えに自分もなれるということに気づくこと、服を買った人は、誰かが自分のことを応援してくれていることに気づくことを目的にしたプロジェクトです。ひきこもりの人も、ひきこもりに関わらない人生を送ってきた人も、この服のことを知ってほしいと思っています>

 

 

 

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