コロナ禍の重症心身障害児 島田療育センターが向き合う正解なき問い

2020年0515 福祉新聞編集部
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有本副院長

 全国初の重症心身障害児(者)施設「島田療育センター」(木実谷哲史院長・東京都)には感染症を専門とする医師や看護師がいる。目に見えない新型コロナウイルスへの不安から、私たちはつい専門家に「正解」を求めがちだ。しかし、大切なのはリスクを減らすには何が必要か、一人ひとりが考えて行動することだという。

 

 「100%完璧な目標を立てて半分しかできない」よりも、「7~8割ほどの目標を確実に実行する」のがいいですよね――。

 

 感染制御の専門資格「ICD」(インフェクション・コントロール・ドクター)を持つ有本潔副院長はこう語る。「こまめに手を洗うこと、飛沫感染を防ぐため人との距離を空けること」に尽きるという。

 

 重度の肢体不自由と重度の知的障害が重複した重症心身障害児・者233人が暮らす島田療育センター。職員数は366人に上る。

 

 感染を防ぐため入所者の外出をやめ、家族の面会も原則禁止にした今、最大のポイントは職員が感染しないようにすることだと有本さんはみている。

 

 「ここまでやれば正解だというものはない。職員にこれをやりなさいと言ってもダメ。自らが考えて実行する意識が大切だ」。学術的な正しさを求めるよりも、日々の心がけの積み重ねを重視する。

 

 その一例として、職員の食堂を変えた。いわゆる「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」を保つため、対面で食事しないようないすの並べ方にした。いすも一つおきに使うよう貼り紙をした。

 

職員の食堂。対面で食事をしないようにいすを配置した

 

 

 組織的な対応も念入りに行う。例年のインフルエンザに備え、全職員が必ず参加する研修は年2回。正しい手洗いの方法を徹底的に習得するほか、感染の広がる過程を5段階に分けてそれぞれのリスクと対処方針を学ぶ。

 

 いざ感染者が出た場合に備えた行動計画も病棟ごとに用意する。新型コロナウイルスについてもこうした基本は同じだという。

 

 入所者の平均年齢は40代。呼吸器をつける人、たんの吸引が欠かせない人など医療的ケアを必要とする人が多い。そもそもリスクと隣り合わせの毎日だ。

 

 だからと言って、リスクを減らすことばかり考え、生活の楽しみを犠牲にして良いという立場はとらない。

 

 「入所者の外出もギリギリまで粘った末にストップした。医療と福祉の二つの価値のせめぎあいだ」と有本さん。その姿は、正解のない問題に向き合い続けることの尊さを感じさせる。

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