介護保険制度20年③ 介護保険で薄れた福祉の理念

2020年0603 福祉新聞編集部
    • このエントリーをはてなブックマークに追加
篠原正治氏

 この20年で食事、排せつ、入浴などの介護技術は向上したが、職員のコミュニケーション力は低下したと感じている。

 

 専門職としての資格が必要な医療と違い、介護は介護福祉士を取得しなくても従事でき、人手不足もあって資格や能力は二の次で採用するしかなかった経緯があり、認知症の人が増えて対応が難しくなったこともある。結果として、利用者への対応に困り、虐待につながるケースが増えてしまっている。

 

 厚生労働省の施策について、現場での対応が難しいことも多い。

 

 例えば、介護保険法の目的に「自立支援」があるが、利用者本人に自立の意欲がないことも多く、認知症の人では理解してもらうことすら困難だ。それでも取り組むのが我々の役割だが、簡単なことではない。

 

 また、特別養護老人ホームは個室ユニット化が進められたが、利用者のプライバシーは守れても、職員配置の面などからすると必ずしも有効ではない。利用料が個室ユニットより安い多床室を選ぶ利用者は多い。

 

 要介護度で基本報酬が決まることは、要介護度の重い人ほど介護の負担がかかるので一定の合理性はあるが、軽度の認知症では歩き回る人も多く、転倒のリスクがあって目が離せないという割には報酬が低いと感じる。

 

 20年で在宅介護も進んだ。しかし、重度の人は24時間対応が必要なため、結局、家族に負担がかかってしまう。地域包括ケアシステムでどこまで対応できるだろうか。

 

 介護と医療の連携は、お互いの理解が足りないため、十分進んだとは言えないが、今後を考えると、介護と医療の連携は、事業者が生き残るためのポイントの一つになるだろう。

 

 また、人手不足を補うため、外国人材の採用が推進されているが、あまり誇張しすぎると日本の若者に介護は大変だというイメージを助長しかねない。日本は少子高齢化が進んで働き手が必要という事情をしっかり説明すべきだ。

 

 介護保険が始まり、先達が私財をなげうって困窮者を支援してきた「福祉」の理念が薄れた。福祉にプラスして経営が重視されるようになった。確かに赤字経営は避けなければならないが、利用者より利益を優先するあまり、福祉から遠ざかりつつある。

 

 多様な経営主体の参入で、社会福祉法人の非課税問題が取り沙汰された。社会福祉法人は福祉の理念を持ち、社会貢献していることを周知しなければならない。介護保険で経営に目がいきがちだが、いま一度、襟を正すべきだ。

 

 ここ数年、推進されている介護ロボットやICTの活用は、設備投資が高額になると、1法人1施設の小さな社会福祉法人では対応は難しい。大規模法人なら対応でき、多くの役職がつくられて人材も集まるため、将来的には大規模化の流れがくるだろう。

 

 これまでの介護保険の施策は、サービスを増やす方向で進められてきた。しかし、既に特養の入所者が減り、空きベッドが出る地域もあるため、今後は局面が一変し、淘汰される社会福祉法人も出てくる。

 

 そこで生き残るには、質の高い介護サービスを提供できるかだ。それには良い人材が不可欠。良い医者がいる病院の評価が高いのと同じで、良い介護をするところに利用者が集まる。

プロフィール

 篠原正治(しのはら・まさはる) 1942年生まれ。医療関係の仕事に従事した後、83年に横浜長寿会を設立。現在、特養、通所介護など13事業を行う。職員は約200人。全国社会福祉協議会評議員、神奈川県社会福祉審議会委員、同県社会福祉協議会長も務める。

[視点]報酬に縛られる運営

 介護報酬は原則3年に1回見直され、国が改定率を決めている。介護事業者の収入になるもので、改定率の増減は事業運営を大きく左右する。

 

 要件を満たせば算定できる加算や地域区分などで違いは出るが、同じ要介護度の利用者に同じサービスを提供すれば、報酬は同じになるので、事業者はその範囲の収入で経営しなければならない。

 

 これまでの改定率は増減を繰り返し、制度の創設時を100とすれば、現在はそれより低い水準にある(期中改定除く)。事業者は、できるだけ多くの加算を算定して上乗せとなる収入を得なければ、経営が厳しい状態になっている。

 

 株式会社などの新たな主体の参入は、サービスの普遍化に寄与したが、一方で、利益を優先し、サービスの利用者を置き去りにする傾向も散見された。不正請求をして処分を受ける前に事業所を廃止する「コムスン問題」が起きたり、近年は安易な参入による事業者の倒産も増えたりしている。

 

関連記事

介護保険制度20年① 自立支援は発展途上

介護保険制度20年② 「社会保険しかなかった」立案に関わった元官僚

介護保険制度20年③ 介護保険で薄れた福祉の理念

介護保険制度20年④ がんじがらめの制度に

    • このエントリーをはてなブックマークに追加