「性的な被害」を初めて明記 女性支援新法の全容判明

2022年0322 福祉新聞編集部

 困難な問題を抱える女性を支える法案の全容が3月14日、判明した。女性が抱える困難な問題の原因の一つとして「性的な被害」を明記した。参議院法制局によると、法律の本則でこの言葉が使われるのは初めて。「性的な虐待」よりも広く捉え、支援対象とする。法案は各党内で3月末までに審査され、超党派の議員立法として通常国会に提出される見通しだ。

 

 同日刷り上がった法案が公明党の厚生労働部会、婦人保護事業の見直し検討プロジェクトチーム(PT)の合同会議で審査、了承された。PT座長の山本香苗・参議院議員は「婦人保護事業を売春防止法から抜き出し、令和版にバージョンアップする」と語った。

 

 新法の名称は「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律案」。支援対象は性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係性などにより困難な問題を抱えた女性で、年齢制限は設けない。

 

 現在の婦人保護事業は、売春をする恐れのある女性を「要保護女子」として保護更生するもの。女性を処罰する意味合いが強く、困りごとを抱えて支援を要する女性という福祉的な視点は乏しい。

 

 合同会議には、女性支援にあたる関係者8人も出席した。

 

 その一人、婦人保護施設慈愛寮(東京都)の熊谷真弓施設長は「慈愛寮は全国で唯一、妊産婦支援に特化した施設で、予期せぬ妊娠など『産む性』を持つがゆえの困難の最前線にいる。『性的な被害』という文言はとても大事だ」と評価した。

理念に「福祉の増進」

 新法は基本理念に「女性の福祉の増進」「民間団体との協働」「人権の擁護」を盛り込んだ。厚生労働大臣が定める基本方針に基づいて都道府県・市区町村が取り組みの計画を作る。これまであいまいだった地方自治体の役割を明確にする。

 

 婦人保護事業には都道府県に必置の婦人相談所の措置により、要保護女子を婦人保護施設(都道府県の任意設置。47カ所)に入所させる仕組みがある。婦人相談所や福祉事務所には婦人相談員が「委嘱」されていて、その86%は非常勤だ。

 

 新法では婦人相談所を「女性相談支援センター」に、婦人保護施設を「女性自立支援施設」に改称する。措置入所の仕組みは残す。

 

 婦人相談員は「女性相談支援員」に改称し、都道府県や市町村が「置く」と規定した。外部に仕事を委ねる「委嘱」ではなく、行政職員という位置付けを明確にする。

 

 新法制定に伴い改正される法律は社会福祉法、児童福祉法など30本に及ぶ。売春防止法は1956年の公布以来66年ぶりの改正。法務省所管の婦人補導院法は廃止される。

 

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