「普通の暮らしが分からない」全社協が社会的養護経験者20人の声を出版

2022年0926 福祉新聞編集部

 「心と身体を切り離して、虐待が終わるのを待っていた」「最後の施設で初めて信じられる大人に出会った」「普通の暮らしがどんなことか分からない」――。

 

 そんな社会的養護経験者の声を集めた書籍「My Voice,My Life」が8月31日、全国社会福祉協議会出版部から発行された=写真。全社協が発行する「月刊福祉」の連載をまとめたもので、20人のインタビューを再編した。書籍化にあたって、新たに3人の当事者が参加した座談会も収録している。

 

 さとみさん(20)は、小学1年の時に父親が病気で死亡。それをきっかけに母親は新興宗教にのめり込んだ。同時に、食事もほとんどなく、頭も丸刈りにされるなどの虐待を受けたという。

 

 その後、中学校の通告で保護されて児童養護施設で暮らした。学校では虐待に関する相談カードも配布されたものの、意味がなかった。「本当に(虐待から)救いたいなら、あんなんじゃだめ」と訴える。

 

 えなさん(19)は母親のネグレクト(育児放棄)により小学4年で児童養護施設に入所した。施設での生活は、携帯電話や門限などの「しばり」がイヤだったという。そのため友人からの誘いを断り続けた結果、次第に誘われなくなることを経験した。

 

 施設職員には当初反抗的な態度をとったことも。しかし、今は社会に出て恥ずかしい思いをしないように言ってくれたことが分かる。「施設のことは職員込みでリスペクトしている。今施設で生活しているこどもには止めてくれる大人がおる間が花やで、と言ってあげたい」と語った。

 

 このほか新たに、現在モデル活動をしているれいかさん、障害者支援の仕事をしているスダチさん、タレント活動もしているブローハン聡さんによる座談会も収録。福祉関係者に対しては「人生の大事なキーパーソンであることを忘れないで」「こどもとの感情の共有を大切にしてほしい」などと呼び掛けている。

 

 同誌の連載は2015年に開始された。これまで山縣文治・関西大教授ら4人の研究者が10~30代の85人にインタビューした。

 

 

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