虐待受けた70人の声 映画「REALVOICE」 児童養護施設出身者が監督

2023年0425 福祉新聞編集部
右から主題歌を提供した加藤さん、山本監督、阿部さん

 虐待を受けて育った若者に密着したドキュメンタリー映画「REALVOICE」(リアルボイス)の完成披露試写会が4月12日、都内で開かれた。監督は児童養護施設出身の山本昌子さん(30)。「虐待は大人になっても終わらない。過去の自分たちは救えなくても未来は変えられるはず」と訴える。

 

加藤登紀子さんも

 試写会には、クラウドファンディングの寄付者ら600人が来場。舞台あいさつには山本監督のほか、主題歌を提供した歌手の加藤登紀子さんらも訪れ、作品への感想を述べた。

 

 山本さんは生後4カ月で乳児院に。19歳まで児童養護施設などで暮らした。その後、専門学校で知り合った年上女性の援助により、成人式で着られなかった振り袖を経験した。これをきっかけに「ACHAプロジェクト」を設立し、施設出身者に無償で振り袖姿の写真を撮って贈る活動をしている。

 

 その際、生きづらさを抱えた多くの若者の声を聞いた。山本監督は「私は施設で大切に育ててもらって後遺症もないが、多くは虐待の傷跡に悩んでいた。そんな現状を訴えたいと思ったのが映画のきっかけ」と話す。

 

70人が参加

 メインキャストの阿部紫桜さん(20)は福島県出身。東日本大震災をきっかけに母親の実家がある関西へ引っ越した。その後、母親の再婚相手から暴力を受けたため、中学生から大阪の児童心理治療施設に入ったという。現在、福祉系大学に進学し、社会福祉士を目指している。

 

 作品では、祖父宅への訪問や、成人式の際に振り袖姿で施設職員に会いに行く時などに密着した。そのたびごとに山本監督が母親への思いを尋ねるのが見どころの一つだ。

 

 またシーンの合間で虐待を受けた若者が一言ずつ思いを発する。

 

 「施設のみんなは家族」「施設には未来と希望がある」「いろんな人に支えられたからこそ、支える側になりたい」

 

 これまでの環境への感謝の声が出る一方、「生きるために施設は必要だけど、こどもの声をもっと大切にしてほしかった」「行政より夜の仕事で出会った人の方が信用できた」という訴えもあった。

 

全国で上映会も

 山本監督によると、作品には32都道府県から総勢70人の若者が参加している。一言を撮るまでに4時間以上、会話を重ねたこともあったという。

 

 作品は87分。現在、全国各地で上映会も予定しているが、作品は特設ウェブサイトで無料で見ることもできる。

 

 山本監督は「多くの出演者が、肯定と否定の感情の狭間で悩み抜いた上で、本当の気持ちを出している。これを行政や現場が真剣に受け止めてくれることで、未来が良い方向へと変わっていくことを信じたい」と話す。

 

 

 

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