なくてはならない介護の仕事〈高齢者のリハビリ 56回〉

2023年0811 福祉新聞編集部

お年寄りの葛藤

 日本の平均寿命は2023年の84・3歳(WHO)で世界第1位です。私たちは歳をとっても自分でできることは自分でしたい、できるだけ他人の世話になりたくない、と思っていますが、いずれ心身機能は低下し、活動範囲も狭くなっていきます。高齢者の多くは、かつての自分と今の自分の間に大きな隔たりを感じ、思いと現実との違いに葛藤しながら生きているように感じます。

施設での介護

 かつては脳卒中により寝たきりの生活を送る人がたくさんいました。多くの場合、介護は家族がしていました。「できるだけ家で見よう。施設に入れるのはかわいそう」というのが一般的な考えだったと思います。

 

 その後、高齢化が進み、介護は個々の問題ではなく社会全体の課題と認識されるようになり、2000年には介護保険制度がスタートしました。

 

 以前であれば家族以外の人から介護を受けることに、本人も家族も何らかの抵抗感を持っていたかと思いますが、核家族化や社会情勢の変化により、その感覚は変化してきたように感じます。仕事や家族の状況、家の構造上の問題などから、自宅で見たくても、それができない状況も増えています。理由はさまざまでしょうが、介護施設に入所して最期まで介護を受けて過ごされる人は今後増えていくことでしょう。施設では最期まで良質のケアをどのように提供していくか、重要な課題を抱えています。

介護を笑顔につなげる

 ここで移乗動作を例に考えてみましょう。 ベッドから車いすへの移乗を嫌がっているお年寄りで、起き上がり動作や臥床動作の場面で「痛い、痛い」と、介助を拒む人がいます。このような人には、ベッドの背上げ機能を使えば起き上がる時の腰への負荷は軽減され、同時に介助者も楽に介助できます。痛みが減って楽に動作ができるようになることで車いすに座る回数が増え、臥床して過ごす時間は少なくなってきます。このような経過で食欲が増し、レクリエーションなどにも笑顔で参加してもらえることにもつながります。

 

 別の例です。落ち着きなくあちこち歩いているお年寄りがいて、その対応に苦慮しているようなケース。毎日の行動や環境をよく観察することで、その人の落ち着ける場所が見つかることがあります。穏やかに過ごす場面を見れば、私たちの関わり方にも変化が生じ、お年寄りとスタッフ間で関わりの好循環が生まれます。

 

 お年寄りから学ぶ姿勢は大切です。一つひとつの経験をチームで分かち合い、皆で学ぶことが必要です。

学び続けること

 長い介護経験から上手にお年寄りに対応している介護者はたくさんいます。その人の介護への思いを聞くことはとても大切な勉強です。また、私たちは疾病と障害、体の構造と心身の機能、そのほか福祉用具などについて勉強する機会がたくさんあります。人に関わることへの思いを分かち合いながら、知識と技術を得て、安心で安全な介助ができるようにしたいものです。

 ひとは誰しも人生の最期まで「ありのままの自分で過ごしたい」と願っています。私たちにとって、お年寄りが苦痛なく笑顔で過ごすことほどうれしいことはありません。人生の先輩たちが残された時間を輝かせ、その人らしく過ごせるよう、日々の関わりを大切にしたいと思っています。

 

筆者=江連素実 アビリティーズ・ケアネット リハビリセンター長

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長