マラケシュ条約の批准で広がる本のバリアフリー

2015年0616 佐藤隆信・日本オーディオブック協議会代表理事、新潮社代表取締役社長
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日本オーディオブック協議会代表理事、新潮社代表取締役社長

 電子書籍元年と言われた2010年から5年がたち、新しい書籍の形が広まろうとしている。

 

 今年4月6日、新潮社を含む出版社16社は書籍を音声化したオーディオブックの理解促進・普及を目指す「日本オーディオブック協議会」を設立した。

 

 5年ほど前から、日本書籍出版協会内で「オーディオブック部会を立ち上げ、出版業界としてオーディオブックに取り組むべきだ」という意見はあったのだが、視覚障害者およびプリントディスアビリティのある人々の出版物へのアクセスを促進するための条約「マラケシュ条約」批准に向け著作権法改正が視野に入ったこと、また16年より障害者差別解消法が施行されることが後押しとなり、今回の協議会設立に至った。

 

 今後は、出版社・読者双方に向けたオーディオブックの理解促進や、作品数の拡充を進めていくことで、オーディオブックの認知および市場拡大に向けて取り組んでいく方針だ。

 

 だが、そもそも「オーディオブック」とは何かが分からないという方も多いだろう。一言でいうと、書籍を音声化した「耳で読む本」である。

 

 世界には1100億円以上の市場規模があると言われており、車の利用が多いアメリカでは通勤時や移動時に車内でオーディオブックを聴くことが一般的で、すでに文化として根付いている。

 

 日本でもスマートフォンの普及に伴い、車に限らず電車やバス、飛行機などでも読書ができる手段として若年層を中心に利用が増加し、市場の潜在性を見せてきている。

 

 また、潜在的な市場が大きいということにとどまらず、オーディオブックの普及はバリアフリーの達成という面でも非常に重要な役割を担っている。

 

 情報社会と言われる現代社会はあらゆる情報にあふれている。だが、ほとんどの情報源が視覚に頼ったものであり、聴覚を用いた情報は圧倒的に少ないのが現状である。

 

 視覚障害がある方やディスレクシアの方々は視覚での情報を得ることが困難なため、情報源の偏りが情報格差を助長している。無論、書籍も例外ではない。すべての方に楽しんでいただくためには、文字だけではなく、音声情報としての書籍の提供が重要になってくるのだ。

 

 出版社はこれまで、視覚障害者やディスレクシアの方に向けた書籍の朗読のボランティアへの協力などに取り組んできた。だが、利用がボランティアサービスの存在を知っている一部の方のみに限られてしまうことが課題であった。

 

 こうした中でオーディオブック市場が広がることは、文字が読める・読めないに関係なく、より気軽に本を楽しんでいただくための契機になると期待している。

 

 福祉領域においてもオーディオブックは医療機関や高齢者・障害者施設への導入など、多くの可能性を秘めているだろう。出版業界だけでなく、業界を越えて読書におけるバリアフリーの実現に向けて取り組んでいくことが、豊かな社会を創る上で不可欠であると感じている。

 

 (佐藤隆信・日本オーディオブック協議会代表理事、新潮社代表取締役社長)

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